『李毛異同(8)』 ‐呂布の登場

 これは実際に見て比較していただきましょう。
 拙い書き下しで申し訳ないですけど・・・。

 董卓之を視れば、乃ち荊州刺史丁原なり。卓怒り叱して曰く「我に順うは生、我に逆うは死なり!」遂に佩劍を掣し丁原を斬らんと欲す。
 時に李儒丁原の背後の一人を見、生得器字軒昂,威風凜凜、手に方天画戟を執り、目を怒して視る。
 李儒急ぎ進み曰く「今日飲宴の處たり、國政を談すべからず、來日都堂に向いて公論するは未だ遅からず。」(「毛本」第三回)

 董卓之を視れば、此の人官は荊州刺史を拝す、姓は丁、名は原、字は建陽なり。……卓怒り之を叱して曰く「朝廷の大臣、尚敢えて言わず、汝何等の人なれば輒ち敢えて多言せんや」遂に佩劍を掣し手に在りて之を斬らんと欲す。
 時に李儒丁原の背後の一人を見、身長一丈、腰の大なる十囲、弓馬閑熟し、眉目清秀、五原郡九原の人なり。姓は呂、名は布、字は奉先。官は執金吾を拝し、幼きより丁原に随従し、拝して義父と為す。当日布は方天画戟を執り、丁原の後に立つ。
 李儒意を会して急ぎ進み曰く「今日飲宴の處たり、國政を談すべからず、來日都堂に向いて公論するは未だ遅からず。」(「李本」第三回)



 太字の段落を比較していただくと分かりますけど、つまり「毛宗崗本」はこの段階では呂布の正体を明かさないんですね。
 ただ丁原の背後の恐ろしい猛将が控えていることだけを描き、読者としては異様な雄姿と李儒の慌てように、ただならぬ雰囲気を読みとるのです。そしてこの後になって初めて、李儒の口からその名が明かされ、なるほどこれが飛将軍呂布かと合点する、といった趣向ですね。
 単純にその名を明かしてしまうより、ワンクッションの溜めが効いた、巧みな表現方法かなと思います。