『李毛異同(25)』 -孫策と太史慈

 『三国志演義』第十五回、迫り来る孫策に対して、太史慈が先鋒となって出陣することを願い出ますが主君の劉繇はそれを退けます。その理由が、「李卓吾本」と「毛宗崗本」とで異なっていました。

 李本・・・你未だ大将為らざるべし。(你未可為大将。)
 毛本・・・你の年尚軽し。(你年尚軽。)

 「李卓吾本」ではまだ太史慈がしかるべき地位にないことを理由としていますが、「毛宗崗本」はそれを年の若さに設定しています。ちなみに当時の太史慈の年齢は「李卓吾本」に31歳とありますが、しかしそれでは「年尚軽」に当らないと考えたのか、毛宗崗はこの一節を削っていました。毛宗崗がはっきりとした意図を持って、この部分を変えたことが分かります。
 それは孫策もまた、かつて若年を理由に袁術に侮られていたからです。毛宗崗は孫策太史慈を不遇の若き英雄という同じ境遇に置き、『演義』屈指の名場面である両者の対決に妙味を加えたのです。近代小説でしたらここから更に、同じ境遇にありながら一方は自ら雄飛していく孫策に、太史慈がどういう想いを抱いたか…など踏みこんで内面を描くこともできるかと思いますが、果たして毛宗崗はどこまで考えていたのでしょうか。