『李毛異同(9)』 ‐蔡邕を辟紹する

 李儒卓に名流を擢用するを勸め、以て人望を収む。因りて蔡邕の才を薦す。卓命じ之を徵せど、邕赴かず。卓怒りて、人をして邕に謂わしめて曰く「來らざれば、當に汝の族を滅さんとす。」邕懼れ、只だ命に應じて至たりうるのみ。卓、邕を見て大喜す。(「毛本」第四回)

 エピソードそれ自体は大変有名な、董卓の蔡邕登用の場面です。
 ところが意外にも「李卓吾本」以前にはこの場面はなく、「毛宗崗本」が新たに挿入したものなんですね。これがあるからこそ、この後に蔡邕が董卓の死骸にすがり泣くシーンがあると思うのですが。

 ちなみに「李卓吾本」では、この第四回の以前から蔡邕は董卓の近辺で登場していました。例えば董卓から盧植を庇う場面(第三回)とか、董卓から袁紹を庇う場面(第四回冒頭)とかですね。
 ですから毛宗崗は蔡邕登用のシーンを挿入するにあたって、この場面に矛盾してしまわぬよう、それぞれ前者は彭伯に、後者は李儒に諌め役をしっかり訂正しました。
 毛宗崗の丁寧な改訂の様子が窺えます。