『李毛異同(10)』 ‐董卓が三公諸侯を任じる

李儒卓に名流を擢用するを勸め、因りて蔡邕の才を薦す。(「毛本」第四回)

 昨日は蔡邕の辟紹について書きましたが、実は毛宗崗はこのエピソードを挿入するにあたって、その代わりに同じ箇所にあった以下の挿話を削っていました。 

黄琬を封じて太尉と為し、楊彪を司徒と為し、荀爽を司空と為す。韓馥を冀州牧と為し、張邈を陳留太守と為し、張資を南陽太守と為す。(「李本」第四回)

 新帝冊立に伴う、内外諸官の新任のシーンです。
 でもってこの顔触れを見ての通り、ほとんどがこの後董卓に背いてしまう人たちなんです。なのでここは、董卓が自ら任じた諸官に叛乱されるという、後の場面への伏線になっています。
 だから毛宗崗がこの任命場面を削ってしまっては、諸侯蜂起の場面の面白味が減ってしまう訳です。これは勿体ない削除でした。


 と言いますかむしろ、百官の任命も蔡邕の登用もそのまま並べて記載するべきだったと思います。したらばそうすることよって、上記の伏線効果が活きるのは勿論のこと、それら叛乱してしまった者らに対して、蔡邕だけがただひとり董卓に背かなかったと、彼の行動も強調されるではないですか。