『李毛異同(23)』 -李傕、帯剣する内侍に慄く

 賈詡地に拜伏して曰く「固より臣の願う所なり。陛下しばらく言う勿れ、臣自ら之を図らん。」帝涙を収めて謝す。
 しばらくして、李傕來り見え、帯剣して入る。帝の面土色の如し。傕帝に謂いて曰く「郭艴臣ならず。公卿を監禁し、陛下を劫かさんと欲す。臣非ざれば則ち駕虜せらるるを被らんや。」帝拱手して謝を称し、傕乃ち出づ。(「毛本」第十三回)

 どうも前から、よく意味が分からなかった部分です。
 李傕に悩まされる献帝は、臣下に賈詡を用いることを勧められてこれと密かに会い、賈詡は献帝に忠誠を誓います。と、そこへ突然李傕が入ってきたために献帝は蒼白になりますが、李傕はなにやら恩着せがましいことを述べただけで、また出て行ってしまいます。すわ賈詡の密談がバレたかと思いきや、李傕にその様な様子はありません。そもそも李傕は何をしに現れ、何故突然あの様なことを言ったのでしょうか?

 それは、毛宗崗が「李卓吾本」の以下の部分を削ってしまったために、ちょっと不自然な流れになってしまっていたからでした。 

 しばらくして、李傕入りて帝に見え、腰に三刃刀を帯び、腕に剣を懸け、手に鉄鞭を提げる。帝の面、土の如し。内侍皆な帯剣して帝の側に立つ。傕曰く「郭艴不仁にして、陛下を奪い公卿を監禁せんと欲す。臣非ざれば則ち陛下亦虜せらるるを被らんや。」帝拱手して謝を称す。傕曰く「陛下真に賢聖の主なり。」
 遂に出でて諸将に曰く「内侍帯剣し、帝の側に立つ。吾を害するの心有るに非ざる莫からんや」賈詡曰く、「軍中に帯剣せざるべからざるのみ」。傕笑いて帳中に入れて之を罷む。(「李本」第十三回)


 太字部分は毛宗崗が削った部分ですが、つまり李傕は内侍が武装するさまを見て身の危険を感じたから、あの様に自分の必要性を確認させるような発言をしたのです。献帝がそれを認めたためにひとまず李傕は退出しますが、なお疑念が晴れないので諸将に相談したところ、賈詡が弁明したためにやっと気持ちを収めた、という訳です。またここで賈詡が献帝側を弁護することは、賈詡が心から献帝側に忠誠を抱いた事を暗に示してるかと思います。
 「毛宗崗本」はそれら肝心の部分を削ってしまったために、李傕が突如現れて自慢だけして帰っていくという、何かよく分からない展開になってしまったのでした。